知識や方法論も必要でしょう。でも、………(選手育成のための参考文献)

宿沢 広朗 談
元ラグビー日本代表監督

知識や方法論も必要でしょう。でも、理屈だけでは人の心の中へ入っていけへんで

 ラグビーというのは不思議なスポーツで、プレーしている選手の姿を見ながら「あいつ、ボール落とすんちゃうか」と思った瞬間に、ポロンと落とす。「抜かれるんちゃうか」と思ったとたんに抜かれる。おもしろいように当たるのですが、指導者は普段から、この不安の「不」、不信の「不」を取り除く努力をしていかなくてはいけません。
 グラウンドに選手を送り出したら、監督やコーチは何も手出しできません。すべて選手に任せるしかない。心配したところで、指導者は何もできないのがラグビーです。だからこそ、100パーセント、選手を「信じる」努力が必要です。
 平尾のときの全国制覇も、終了間際の劇的なトライで勝ちましたが、直前まで「引き分けだったら抽選だ」とか、あらぬ思いが私の頭をよぎりました。でもそこで、100パーセント選手を信じていたら、すごいトライが生まれた。彼らを信じてよかった、本当にありがとうと感謝の気持ちになりました。
「不」をつけたまま、つまり心から相手を信じられないでいるとどうなるか。結果は、その「不」の通りになります。思い通りにならないことを振り返ってみると、実際にそう思っている自分が必ずどこかにいるのです。
 100パーセント信じるという努力は、指導者側の努力です。自分の考え方から、どんんどん「不」をなくして、最後は99・9パーセントの信ではなく、100パーセント信じられるかどうか。それはまさに、指導者の「責任」であると思います。
 コーチという仕事は、人のために力を尽くすすばらしい仕事です。知識が求められ、方法論や理屈も必要でしょう。でも、それらだけでは人の心の中には入っていけません。理屈だけでは人は動かない、育たないということです。俺はこんな思いでいるんだぞ、お前達を心底信じているぞと、そういう「熱意」を持って指導に励んで頂きたいと思います。熱き思いこそが、その壁を破るもっとも大切な鍵といえるのではないでしょうか。

選手育成の参考になれば幸いです。CALDIO FC